複素関数

複素関数 #

ここでは複素関数について説明する。 このノートにおいて、複素関数とは複素平面のある部分集合で定義された複素数値関数をいう。 \(f\) が\(U\subset \mathbb{C}\)で定義された複素関数であることを\(f:U\to \mathbb{C}\)と表す。

一次関数 #

二つの複素数\(\alpha, \beta\in\mathbb{C}\)を用いて一次関数を定義できる。 \(a\in\mathbb{C}\)に対して、\(f(z)=\alpha z+\beta\)とすることで\(f:\mathbb{C}\to\mathbb{C}\)が定まる。

\(\alpha\)倍は複素数の回転拡大、\(+\beta\)で平行移動を表す。 図示する。

複素関数の図示 #

二つの複素平面を書いて考える。

ベクトル値実関数との対比 #

\(\mathbb{R}^2\)と\(\mathbb{C}\)を同一視する

集合として、また連続性についてはどちらでも同じ。

一次関数\(f(z)=\alpha z+\beta\)は、\(\alpha=a+bi, \beta=c+di\)とおくと、 $$ \alpha z+\beta=(a+bi)(x+yi)+(c+di)=(ax-by+c)+(ay+bx+d)i $$ である。

対応するベクトル値関数は $$ \begin{pmatrix} ax-by+c\\ ay+bx+d \end{pmatrix} $$

これは行列を用いると $$ \begin{pmatrix} a&-b\\ b&a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} c\\ d \end{pmatrix} $$ である。

さらに、 $$ \begin{pmatrix} a&-b\\ b&a \end{pmatrix} =\sqrt{a^2+b^2} \begin{pmatrix} a/\sqrt{a^2+b^2}&-b/\sqrt{a^2+b^2}\\ b/\sqrt{a^2+b^2}&a/\sqrt{a^2+b^2} \end{pmatrix} $$ であり、 $$ \begin{pmatrix} a/\sqrt{a^2+b^2}&-b/\sqrt{a^2+b^2}\\ b/\sqrt{a^2+b^2}&a/\sqrt{a^2+b^2} \end{pmatrix} $$ は行列式が\(1\)の直交行列である。

複素関数の連続性 #

複素関数の連続性は、単に二変数関数\(f(x,y)\)の連続性と同じ。 \(\mathbb{C}\)の位相は\(\mathbb{R}^2\)の位相と同じで、距離を絶対値で測る。 \(z=x+iy, w=u+vi\)としたとき、\(z, w\)の距離と\((x,y), (u,v)\)の距離は同じ。 連続であることは $$ \lim_{z\to a}f(z)=f(a) $$ で定義する。 \(\epsilon\delta\)でかくと、任意の\(\epsilon>0\)に対し、ある\(\delta>0\)が存在して、 \(\lvert z-a\rvert<\delta\)ならば\(\lvert f(z)-f(a)\rvert<\epsilon\)である。

多項式函数 #

複素数係数の\(z\)の多項式\(f(z)=z^n+\cdots+a_n\)は、\(a\in\mathbb{C}\)に対して\(f(z)\)を対応させることで、 関数\(f:\mathbb{C}\to\mathbb{C}\)を定める。

有理関数 #

多項式函数の比で定まる関数を有理関数という。

\(f(z)=\dfrac{az+b}{cz+d}\)を一次分数変換という。 これは\(\mathbb{C}\setminus\left\{\dfrac{-d}{c}\right\}\)で正則な関数である。

\(\mathbb{C}\)に無限遠点\({\infty}\)を付け加えてリーマン球面を考える。 すると、一次分数変換はリーマン球面からリーマン球面への「正則関数」となる。 この関数により、リーマン球面の「円」は「円」にうつる。

リーマン球面における「円」は通常の複素平面における円または直線である。

冪級数 #

複素数を係数に持つ冪級数 $$ \sum_{n=0}^\infty a_nz^n=a_0+a_1z+a_2z^2+\cdots $$ は、これが収束する\(z\in\mathbb{C}\)に対して、関数を定義する。

指数関数 #

複素数に対する指数関数を定義しよう。  \(e^z, \exp(z)\)をどう定義するか。 いくつかのやり方がある。 冪級数、オイラーの公式、微分方程式など。 等角な拡張として特徴づけられる。

実数における指数関数を拡張すること、指数関数を満たすこと。

冪級数 #

実数の範囲で、指数関数\(e^x\)のテイラー展開が $$ \sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}x^n $$ であることを利用する。 この冪級数は全ての複素数で収束するため、関数\(f:\mathbb{C}\to\mathbb{C}\)を定義する。

二項定理を用いることで、複素数に対しても指数法則が成り立つことが証明できる。

また(実関数としての)三角関数のテイラー展開と比較することでオイラーの公式 $$ \exp (x+yi)=e^x(\cos y+i\sin y) $$ が証明できる。

これを通して周期\(2\pi i\)を持つこともわかる。

オイラーの公式 #

天下りに\(z=x+iy\)に対して $$ \exp(z)=e^{x+iy}=e^x(\cos y+i\sin y) $$ と定義してみる。 ここでは実数の範囲での指数関数と三角関数しか用いていないことに注意する。

すると、これについて\(u, v\)は全微分可能であり、コーシーリーマン方程式を満たすことも直接計算できる。 さらに導関数は\(f'(z)=f(z)\)となることもわかる。 上で与えた天下りな式は、指数法則の等角性から導出することもできる。 この関数について、周期\(2\pi i\)をもつ。 特に単射ではないため、全域で逆関数を持たない。

等角性 #

\(\exp z\)は正則関数である。 そもそも複素関数としての\(\exp z\)はどう定義されるか。

指数法則と等角性を用いて拡張する。 まず、指数法則から\(\exp(x+yi)=\exp(x)\exp(yi)\)となり、実数に対する\(\exp(x)=e^x\)はすでに定義されているため、 \(\exp(yi)\)を定義すればよい。

ここで、\(\exp(x)\)は\(x\)を動かすと実数倍されるため、その軌跡は原点から放射状に伸びる半直線になる。 これらの半直線と常に直交する曲線は何か? それは原点を中心とした円である。

指数関数の様子を把握するために、\(x\)一定の曲線や\(y\)一定の曲線がどのようにうつるかをみておこう。

三角関数 #

複素関数としての三角関数を定義しよう。

上の指数関数の定義において、実数\(\theta\)にたいし、\(e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\)となることから、 $$ \dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}=\cos\theta $$ $$ \dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}=\sin\theta $$ が成り立つ。

そこで、同じ式用いてそのまま複素数に拡張する。 $$ \cos z = \dfrac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} $$ $$ \sin z = \dfrac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} $$

すると、これは実数に対する三角関数と同様に、周期\(2\pi\)をもち、加法定理が成り立つことが、指数関数の周期性と指数法則からわかる。 $$ \cos (z + 2\pi) = \cos z $$ $$ \sin (z + 2\pi) = \cos z $$

$$ \cos (z + w) = \cos z \cos w - \sin z \sin w $$ $$ \sin (z + w) = \sin z \cos w + \sin w \cos z $$

対数関数 #

複素数に対する対数関数を定義しよう。 実数の範囲では、指数関数の逆関数として定義できた。 これは、異なる実数\(x, y\)に対しては\(e^x\)と\(e^y\)が異なるためである。

一方で複素数の範囲では、指数関数が複数の複素数で同じ値をとる。 なので、逆関数が直ちには定義できない。

しかし、多価関数としては以下のように定義することができる。

指数関数は、\(z=x+yi\)に対して $$ \exp(z)=e^x(\cos y+i\sin y)=e^x\cos y +i e^x\sin y $$ と定義された。

\(w=\exp(z)\)を\(z\)について解くことで\(z=\log w\)を定める。 \(z=x+yi\)とし、\(w=u+vi\)として、\(x, y\)について解けばよい。 $$ u+iv = e^x\cos y +i e^x\sin y $$ であるので、 $$ u=e^x\cos y, v = e^x\sin y $$ である。 $$ u^2+v^2=e^{2x}(\cos^2y+\sin^2y)=e^{2x} $$ であるので、 $$ x=\log\sqrt{u^2+v^2} $$ である。ただし、ここの\(\log\)は実関数としての対数関数である。

また、 $$ \frac{v}{u}=\frac{\sin y}{\cos y}=\tan y $$ なので、 $$ \arctan\frac{v}{u}=y $$ である。 \(\dfrac{v}{u}\)は複素平面で言えば原点と\(z\)を結ぶ線分の傾きであり、偏角\(\theta\)とすればこの傾きは\(\tan\theta\)であったから、 $$ y=\arg(z) $$ である。 ただし、これは一意に決まらないことに注意する。

つまり、 $$ \log(w)=\log\lvert w\rvert+i\arg w $$ であることが\(w=\exp(z)\)であることと同値である。

極形式\(z=r(\cos\theta+i\sin\theta)\)を用いると $$ \log(z)=\log r+i\theta $$ である。

ただし、偏角\(\theta\)は一意には定まらないことに注意しよう。 複素数においては対数関数は多価関数となる。 このことはこの先に学ぶ線積分を通しても理解できる。

冪乗函数 #

複素数の複素数乗を定義しよう。 対数関数を用いて次のように定義する。

一般の\(\alpha\)に対し、 $$ z^\alpha=\exp(\alpha\log z) $$ と定義する。

対数関数が多価関数であったことから、\(f(z)=z^\alpha\)も一般には多価関数となることに注意せよ。 ただし、\(\exp\)が周期関数であることにより、\(\alpha\)の値によっては\(\alpha\log z\)の多価性が消える場合がある。 \(\alpha\)が整数であれば一価正則に定まる。 有理数であれば有限通りの不定性がある。

べき関数の定義を与えよう。 例えば\(f(z)=\sqrt{z}=z^{1/2}\)でも上の対数関数と同様に\(\mathbb{C}\)上で一価正則な関数として定義することはできない。

指数が複素数の冪乗は注意して計算する必要がある。 次の計算がどこがおかしいか考えよ。 $$ -1 = (\sqrt{-1})^2 = \sqrt{-1} \times \sqrt{-1} = \sqrt{(-1)^2} = \sqrt{1} = 1 $$

実数\(x\)に対する\(\sqrt{x}\)は二つある平方根のうち正の方をとる、ということで全ての実数に対して一斉に\(\sqrt{x}\)を定めることができ、 これが連続関数となっていた。

複素数に対しては、二つある平方根のうち、例えば偏角が\(0\)以上\(\pi\)未満の方をとることにすると、一斉に\(\sqrt{z}\)を定めることができるが、 これは連続関数とはならない。 単位円周に沿って一周連続的に\(\sqrt{z}\)の値を変化させるとどうなるかを考えよう。